2015年にドイツでベストセラーリスト1位だったこの本を、九州大学教授が翻訳して、今年2016年6月に白水社が出版した。

著者でジャーナリストの、ユルゲン・トーデンヘーファー(Juergen Todenhoefer) は「対立する二つの、どちらの意見も聞かなければ真実は分からない」という信念に基づいて、2014年IS領内を取材した(事前に連絡を取り、カリフ国事務局から安全保障書をもらっている)。IS領内で暮らす人や、IS戦闘員となった外国人、捕虜などに話を聞いたり、IS領内の様子など、生きた世界を感じられるルポタージュ。トーデンヘーファーと彼の息子、その友達の三人で、トルコから車を乗り継ぎ入り込む。トルコの国境では銃を持ったトルコ兵が見張っている。国境の違法出入国は冷や汗ものだし、IS領内でもアメリカの無人爆撃機などに遭遇する。IS領内を案内してくれるIS戦闘員たちとの関係も日に日に悪くなっていく。そのような危険にあってでもIS側の意見を聴こうとする著者のジャーナリスト魂は本当にすごい。

そして、日本でもこのルポタージュは読まれるべきだと、翻訳・出版に尽力した九州大学の教授。後書きに、いろんな出版社に出版を断られたと書いてある。その中で出版をOKした白水社。いろいろな人の思いと使命感によって、この本を手に取って読むことができ、ISのこと、イスラム教のことを考えるきっかけをくれた。
 

トーデンヘーファーは西側諸国、ISともに痛烈な批判をしている。もしも地獄があるとしたら、西側諸国とISはそこで出くわすだろうと。

本の前半は西側諸国への批判。

アラブ人を虐待することは西側では犯罪とみなされないが、IS戦士が同じような犯罪を起こしたら西側諸国の憤慨は留まることを知らないだろう。将校たちが会議を開き、「我々にとって大切なもの」をそのような恥知らずな攻撃からどうすれば阻止できるか、対応を考えるところだろう。これは、アラブ人によって引き起こされる犯罪は明らかに自分たちが行う犯罪とは別物である、という考え方である。それは実際吐き気を催させるほどの人種主義である。(23ページ)

話はそれるけど、このような人種主義は日本での在日外国人への差別にもあてはまるんじゃないだろうか。

この200年間、アラブの国が西側の国を攻撃したことは一度もない。攻撃者は常にヨーロッパの強国であって、何百人というアラブの一般市民がそのつど残忍に殺害された。(24ページ)
「聖戦」を考案し、十字軍行軍において400万人以上のムスリムとユダヤ人を虐殺したのはイスラーム教徒ではなかった。イェルサレムで「くるぶしまで血に浸りつつ先に進み、そして、僥倖に鳴き声を上げながら」救世主の墓に歩み寄ったのはキリスト教徒であった。アフリカとアジアの植民地化という名目で5000万人の人間を虐殺したのはやはりイスラーム教徒ではなかった。7000万人の死者を出した第一次、第二次世界大戦を企てたのはイスラーム教徒ではなかった。また1000万人のスラブ人と600万人のユダヤ人という、同法国民、隣人ないし友人たちを臆病にも、卑劣にも殺害したのはイスラーム教徒ではなくて、我々ドイツ人だった。(25ページ)
ISは殺人的なテロ組織であって、それに対する説明はできても正当化はできない。しかし西側の政治が正直であれば、ブッシュ・ジュニア、チェイニー、ラムズフェルド、ブレアたちの方が、少なくとも彼らの犠牲になったものの数から言えば、より残忍なテロリストであったということは、認めなくてはならないだろう。彼らが軍事介入するところでは常に何千人、何万人もの一般市民が苦痛の中で死んでいる。無数の人間たちが辱めを受け、拷問に耐え、強姦された。(34ページ)
しかしながら爆弾やミサイルによる死が映像や写真に映し出されることはめったにない。そのため、民家に向けて発射されたアメリカのミサイルによって殺された母親やその子供たちの死の瞬間を我々は思い浮かべられない。我々はそれを目にしない。(34ページ)

ジョージブッシュがした国際法違反のイラク戦争で100万人を超す人間が殺された。9.11の後、イスラム教がテロリズムと親和性が高いというイメージを西側諸国はまき散らし、イスラム(ムスリム)をテロリズムと結びつけた。
 

本の後半は、IS領内を取材した10日間。町の様子が丁寧に描かれ、写真もいくつか載せられている。取材相手や案内人との会話を通して緊迫感が伝わってくる。著者は終始IS戦闘員に対して、ISがしていることはイスラム教の教えに反していることをびっくりするほどはっきりと批判し続けている。
そしてドイツに帰国してから、カリフへ領内を取材・案内してもらったお礼という名の批判の手紙を書いている。その際、コーランをいくつか引用して、いかにISのしていること(殺人や強姦、宗教の押し付け、悪によって悪を撃退すること)がイスラム教の教えから離れているかを書いている。

さらに、ISがしていることは本来の慈愛に満ちた寛大な宗教であるイスラム教のコーランと正反対のことである。だから、ISではなく、アンチIS、AISと名乗るべきだ、とまで言っている。

コーランの中で神を描写するものとして「慈愛あまねき」ほどよく現れる言葉はありません。114あるコーランの章のうち113は「慈愛深き、慈愛あまねきアッラーの御名において」という文字で始まります。

ISはイスラム教ではない。イスラム教は、本来慈愛に満ちた、寛大な宗教である。そんなイスラム教とテロは結びつかないものであることを訴えている。

著者がIS側のインタビューに行くことがSNS上で広まったとき、多くの人が嫌悪感をあらわにした。

「あの男が決して戻ってこないことを望む」、「あいつらが彼を再び五体満足な形で返してやるだろうか」と問いかけている人間もいる。(158ページ)

このような声には、自分の嫌悪するものとは話をしない、話をする人間を嫌うという考えがみられる。この一面的な考えは、真実を知ること、理解し合うことを妨げ、争いを大きくする原因の一つになる。この本を読むと、西側諸国の違法行為における知識と共に、どうしてISができたのか、どうしてIS戦闘員でいるのか、などの疑問に対するの生の返答を聴くことができる。
 

著者紹介より:元裁判官。アメリカの同時多発テロ事件発生を機にジャーナリストとして活躍するに至り、数々のベストセラーを著す。ベストセラーとなった自著の出版収入をアフガニスタン、イラク、シリア、コンゴ、イスラエルにおける戦争で犠牲になった子供たちに寄付。


「イスラム国」の内部へ:悪夢の10日間
ユルゲン・トーデンヘーファー
白水社
2016-06-18


人類が火星にやって来る物語を年代ごとにおっていく。いくつもの短編を紡いだ形の本。

私が特に好きな物語は、最初の方のいくつか。最初の方の話は、人類が初めて火星に降り立って、火星人と出会う話。

・イラ  間接的表現で何が起こったか読者に想像させる書き方が粋。
・地球の人々  火星人の性格や行動が面白く描かれている。
・ 第三探検隊  不気味さとスリルが際立っていて、サスペンスのよう。
・月は今でも明るいが  侵略することを良しとしない一人の探検隊員の孤高の戦いや精神的苦悩の美しさ。痛烈な植民地批判。

次どうなるか予測不可能で、気になって仕方がなくて一気に読んだ。作者自身も問題をどう解決するか書きながら思いついたんじゃないかと思うくらいの予測不可能さ。読書中にアハ体験を何度もするような感じ。作中に出てくる詩が美しいんだけど、物語自体が芸術作品のように美しい。意外にバッドエンドな物語が多いけれど、希望が含まれていて、読み終えた後はポジティブな気持ちになれる本だと思う。
 
火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ
早川書房
2010-07-10


 

この本は何度も何度も読んでる。

両親との関係の描写が凄い。実感があって読んでいて、苦しくなって泣きそうになる。その中でもこの文章は特別。
親馬鹿と一口に言うけれど、親の馬鹿程有難い物はない。祖母は勿論、両親とても決して馬鹿ではなかったが、その馬鹿でなかった人達が、私の為には馬鹿になって呉れた。勿体ないと言わずには居られない。
二葉亭 四迷
新潮社
1949

平凡―他六篇 (岩波文庫)
二葉亭 四迷
岩波書店
2005-02

 

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